結びは、祈り。日本のこころ。
日本最古の歴史書といわれる「古事記」に、「ムスヒ」という言葉があります。
「産霊」と書きます。「ムス(産)」には“生み出す”、「ヒ(霊)」には“神霊の神秘的な働き”という意味があり、ムスヒ(産霊)とは、「結びつくことによって神霊の力が生み出される」ことだと言われております。 古事記には、“天地が形成された始まりの時に、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみムスヒのかみ)、神産巣日神(かむムスヒのかみ)という三柱の神が現れた”と記されています。この中の二柱の神名にも「ムスヒ」が見えることなどからも、「天地万物を生成する霊妙な力をもつ神霊」とも定義されます。いかに「産霊」が大事にされてきたか、おわかりいただけるのではないでしょうか。
日本の着物は、帯によって結ばれ、形が整います。これは機能として着物を「結ぶ」だけではなく、着る人への深い祈りが込められています。
「何事もなく無事でありますように」「心安らかに一日を終えられますように」「幸に恵まれますように」…様々な寿ぎの思いを、一筋の帯に込めるのです。より美しく結ぶことで、祈りをより美しいものとして「結ぶ」のです。
日本の文化の中では、“願いを込めて結ぶことは、人の想いまでをも留まらせることができる”と考えられていたのです。
神社では「しめ縄」という形で幾重にも結ばれた縄で結界を張り、運勢を占うおみくじを神社の木の枝などに結び置くことなど行為など、日本には「結び」に関する文化が多くあります。
結び文という手紙を結んだ形にすることで、思いを込めたり、贈り物に結ぶ水引は品物を結ぶだけではなく、贈り物に込めた意味や品物自体を伝えることができます。
風呂敷の結び方にも様々な意味合いがあります。
茶道では、お茶を詰める茶壷に結ぶ紐に意味を持たせます。そしてその結び方には、一つ一つ名前が付けられています。
今こうして、帯結びを振り返るとき、「結ぶ」だけで形作る結びの美しさを失うことは惜しみて余りあることではないでしょうか。
着物を着る機会が少なくなった今、タンスの中に忘れられている美しい帯に込められた思いと時を結びなおし、時を
とりかえしたいと思いました。
このゆい帯「彩結実」は、帯を切ることも縫うこともなく「結ぶ」という手技だけで、仕上げています。
一本の帯が、結び方を変えるだけで、こんなにも豊かな彩を見せ、鑑賞に耐え得るオブジェに、アートに仕上がってまいります。
しかも、結びを解くことで、再び一本の帯に戻り身に着けていただけます。結びのなす技です。
古来より祈りを込め結ぶという日本の文化を、今再び「帯と結びの新たな出会い」として多くの方にご紹介してまいりたいと思っております。